大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)139号 判決

原告 奥崎謙三

被告 中央選挙管理会

〔抄 録〕

一 中央選挙管理会を被告とする参議院(全国選出)議員の選挙の効力に関する訴訟においては再選挙を命ずる旨の裁判を求めることは許されないと解すべきである。けだし、右訴訟は行政事件訴訟法五条にいう「民衆訴訟」であって、訴訟当事者間に争われている具体的権利義務につき裁判所が判断を与えて当事者間の争いを解決することを目的とするものでなく、裁判所はその訴訟の審理において選挙の規定に反する事実を認め、かつそれが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り選挙の無効を判決するものであり、その場合に裁判所がなし得ることは当該選挙の全部又は一部の無効を判決するだけであって、再選挙の施行を命ずることは含まれていないからである。したがって原告の本件訴のうち被告に対しすみやかな再選挙を求める部分は、不適法であって却下を免れない。

<中略>

1 原告は、昭和五一年四月以来勾留されて東京拘置所に入所中であって、同年五月起訴され、わいせつ図画頒布被告事件につき同年九月東京地方裁判所において懲役一年六月の判決言渡を受けて控訴し東京高等裁判所において審理中いわゆる獄中立候補を標榜して勾留されたまま参議院議員立候補の届出をした。

2 NHK(日本放送協会)は、公職選挙法一五〇条、同施行令一一一条の四、昭和四四年九月一日自治省告示一三九号に基づき本件選挙候補者のテレビジョン放送及びラジオ放送による政見放送を担当、実施していたものであり、政見放送の日時は右自治省告示一一条により被告がくじで定めることと規定され、右自治省告示一条四項、二条、一一条、一二条、一八条によれば政見放送の実施についてはNHKと被告とが協議してなすべき旨が定められ、同告示六条には政見放送の収録につき録音又は録画は候補者の希望を考慮してその日時及び場所を定め(一項)、候補者が正当な理由がなく定められた日時場所に出向かなかったため、録音又は録画を行なうことができなかったときは当該候補者の政見放送は実施しない(二項)旨が定められ、政見放送は、全国区公職選挙についてはNHKが候補者との契約に基づき前記法律、命令、告示に従って実施してきたものである。

3 NHKは、政見放送の申込、収録等の手続につき本件選挙候補者に周知徹底させるためかねて昭和五二年五月一七日自治省主催で開かれた本件選挙立候補予定者との事前打合せ会の席上、政見放送の申込、受付、収録日程につき説明し、同席上、各候補者あてNHK作成に係る「選挙放送のご案内」と題する文書を配布し、原告は右事前打合せ会に河内山寛二を代理人として出席させた。

4 NHKは、本件選挙の政見放送の申込受付期間を同年六月九日から同月一九日まで、収録期間を同月一三日から同月一九日までと定めて明示した。原告は同月一三日当時勾留中であり、前記河内山を代理人としてNHKに対し政見放送の申込をし、NHKは、同日、河内山の希望どおり原告の政見放送の録音・録画の日時を同月一八日午前一一時と指定した。

5 原告は、NHKが指定した4記載の日時に指定場所に出向かず、その代理人柴崎は同月一九日NHKに対し翌二〇日被告が保釈される見通しがついたので再度原告に政見放送の収録の機会を与えられたいと要請した。NHKは候補者になるべく政見放送収録の機会を与えたいとの配慮から特に右要請を容れることとし、収録機械の故障などの場合に備え内部的に収録予備日としていた同月二〇日午後三時三〇分を原告の政見放送の収録日時として再度指定するとともに原告の政見放送の収録がさらに遅延して政見放送全般の制作に支障を来すことを未然に封ずるために柴崎に対し原告が右日時に指定された場所に出向かなかった場合には今回の原告の政見放送はとりやめる旨の確約書の提出を要請し、柴崎は右配慮に謝意を表して右趣旨を記載した確約書と題する書面をNHKあてに提出した。

6 原告の前記刑事事件の弁護人庄司宏は、同月二〇日、原告が政見放送収録時刻として指定された同日午後三時三〇分にNHK指定の場所に出向くことができるようにするため東京高等裁判所に対し原告の保釈を請求し、同裁判所は原告に対し保釈を許可する旨の決定をした。しかし、右決定に対し同日検察官から異議申立がなされ、右裁判所は異議の裁判があるまで保釈許可決定の執行を停止する旨の決定をした。したがって、原告は釈放されずNHK指定の場所に出向くことができず、原告が出向いて来なかったためNHKは同日午後五時頃被告に対しその旨連絡し、被告の指示に従い原告については政見放送を行なわず、放送予定を組みかえて経歴放送のみを実施することにした。検察官の保釈許可決定に対する異議申立は東京高等裁判所により適法であるが特に原告の身柄拘束期間が第一審判決の宣告刑の期間に近くなっている等の事情に鑑み不当であるという理由で同月二一日棄却された。

右1ないし6の事実が認められ、これに反する証拠はない。

以上争いがなく、被告の自認する事実に1ないし6の各事実を総合した事実関係のもとにおいて、原告は、選挙候補者として、正当な事由がないのに、原告とNHKとの契約に基づき、前記自治省告示六条一項に従いNHKが原告の政見放送の録音及び録画を行うために、原告の希望を考慮して定めた昭和五二年六月二〇日午後三時三〇分にNHKの指定した東京都渋谷区NHKに出頭しなかったのであって、そのため原告の政見放送の録音及び録画を行なうことができず、同告示六条二項の規定に従いNHKが原告の政見放送を実施しなかったことは当然といわなければならない。公職選挙法二〇五条にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、選挙の管理執行の手続に関する法規の明文に違反する場合のみでなく、直接かような明文はなくても選挙の自由公正な施行が著しく阻害される場合をも含むものと解すべきである(最高裁昭和二七年(オ)第六〇一号同二七年一二月四日判決民集六巻一一号一一〇三頁参照)が、原告の政見放送が実施されなかったのが、本件選挙候補者として原告が正当の理由がないのに前記自治省告示六条一項により自己の希望を考慮して定められた自己の政見放送の録音録画日時に指定場所に出向かなかったからであること前叙のとおりである以上、被告が右自治省告示六条二項に従い原告の政見放送を行わないこととしたことは選挙の管理執行の手続に関する法規の明文に違反するものでもなく、選挙の自由公正を著しく阻害するものでもないというべきである。原告は原告がNHKの指定した日時に指定された場所に行けなかったのは昭和五二年六月二〇日午後二時三〇分頃東京高等裁判所が原告の保釈を許可する旨の決定をしたのに対し東京高等検察庁検察官が異議申立をしたことによるのであって原告が指定時間に指定場所に行けなかったのには正当な事由があるというが、前叙のとおり原告は昭和五一年九月第一審裁判所において、懲役一年六月の有罪判決を言渡され、控訴中とはいえ既に無罪の推定を失い当時勾留中であり、あらかじめ同年五月一七日自治省主催の本件選挙立候補予定者との事前打合せ会に原告の代理人河内山を出席させ、同年六月一三日同代理人により原告の政見放送を申し込み、原告の立候補屈出をしたのであって、勾留中立候補を決意し政見放送の申出をした同年六月一二日にはその録音録画にそなえ保釈を請求できたのであり、保釈許可決定に対し、異議の申立及びこれに伴う執行停止により保釈による釈放のある程度遅延すべきことは当初から予期し得たにかかわらず、原告の弁護人が保釈請求をしたのは同年六月二〇日であり、前顕甲第四号証によれば、異議申立を棄却した東京高等裁判所は同じ決定で異議申立の適法であることを明示しているのであるから、原告が指定時間に指定場所に出向けなかったことに正当の事由があるとは認めることはできず、その他原告の主張する本件選挙無効の主張はいずれも独自の見解を前提とするものであって採用の限りではない。

さすれば、以上の事実関係を総合しても本件選挙においてその管理執行の手続に関する明文の規定の違反があり、もしくはその自由公正な施行が著しく害されたとは認められないから、これによって本件選挙の無効をきたすものということはできない。

(吉岡 園部 前田)

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